
「フリーランスになったら、社会保険ってどうなるんだろう?」「会社員時代と比べて、保険料がすごく高くなるって本当?」
独立を考え始めた方や、フリーランスとして歩み始めたばかりの方が、最初に直面する大きな壁が社会保険の問題です。
会社員時代は給与から天引きされ、あまり意識することがなかったかもしれません。
しかし、これからは全て自分で手続きし、全額を負担する必要があります。
その仕組みや金額が分からず、漠然とした不安を抱くのは当然のことです。
この記事では、そんな不安を解消するために、フリーランスの社会保険の基本から、最適な保険の選び方、そして具体的な保険料の節約術まで、専門用語をわかりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、社会保険に対する漠然とした不安は消え、「自分はこうすれば良いんだ」という明確な指針と自信が得られるでしょう。
Contents
まず理解するべき!フリーランスと会社員の社会保険の決定的違い
会社員からフリーランスになると、社会保険は大きく変わります。
これまで会社が半分負担してくれていた保険料は、全額が自己負担になります。
この違いを正しく理解することが、最初の一歩です。
まずは、何がどう変わるのか、全体像を把握しましょう。
加入する保険と負担額が一目でわかる比較表
会社員とフリーランスでは、加入する保険の種類や保険料の負担方法が大きく異なります。
特に、フリーランスには会社員のような手厚い保障がない点に注意が必要です。
保険の種類 | 会社員 | フリーランス | ポイント(違い) |
---|---|---|---|
健康保険 | 健康保険(協会けんぽ・組合健保) | 国民健康保険 または 国民健康保険組合 | 会社員は保険料を会社と折半。フリーランスは全額自己負担。 |
年金保険 | 厚生年金+国民年金(2階建て) | 国民年金のみ(1階建て) | フリーランスは将来の年金額が少なくなるため、自助努力が必要。 |
雇用保険 | 加入 | 加入できない | フリーランスは失業しても、いわゆる「失業手当」はもらえない。 |
労災保険 | 加入 | 原則加入できない(※) | フリーランスは仕事中のケガや病気に対する保障が基本的にない。 |
(※)労災保険には、一部の職種の方が任意で加入できる「特別加入制度」があります。
このように、フリーランスは保障が手薄になる一方で、金銭的な負担は増える傾向にあります。
この現実を直視し、自分で備えを固めていく必要があるのです。
【健康保険編】フリーランスの4つの選択肢とあなたに最適なプランは?
フリーランスが加入できる健康保険には、主に4つの選択肢があります。
それぞれの特徴を理解し、ご自身の収入や職種、家族構成に合った最も有利なプランを選ぶことが重要です。
選択肢1:基本となる「国民健康保険」
ほとんどのフリーランスがまず検討するのが、市区町村が運営する国民健康保険(国保)です。
退職した会社の健康保険から切り替える、最も一般的な選択肢と言えます。
保険料の仕組み
前年の所得(収入から経費を引いた額)に応じて保険料が決まります。
保険料率は市区町村によって異なるため、お住まいの地域で確認が必要です。
手続き
退職日の翌日から14日以内に、お住まいの市区町村役場で手続きをします。
- 必要なもの:健康保険資格喪失証明書、本人確認書類、マイナンバーカードなど。
所得が低い間は保険料も抑えられますが、収入が増えるとその分保険料も高くなるのが特徴です。
選択肢2:退職後2年間の限定措置「健康保険の任意継続」
退職前の会社の健康保険に、退職後も最長2年間継続して加入できる制度です。
ただし、これまでは会社が半分負担してくれていた保険料を、全額自分で支払う必要があります。
メリット | デメリット |
---|---|
保険料が退職時の収入で固定される(上限あり) | 保険料が会社員時代の約2倍になる |
会社員時代と同じ保障内容を受けられる | 原則として2年間は脱退できない |
家族を扶養に入れ続けられる |
高収入の方の場合、国民健康保険よりも保険料が安くなるケースがあります。
退職後20日以内に申請が必要なため、検討するなら早めに行動しましょう。
選択肢3:特定の職種ならお得な「国民健康保険組合(国保組合)」
特定の業種・職種のフリーランス向けに設立されているのが、国民健康保険組合です。
国保組合の最大のメリットは、所得に関わらず保険料が一定である点です。
国民健康保険組合の例
- 組合名:文芸美術国民健康保険組合
- 対象者:デザイナー、イラストレーター、ライター、写真家など
- 保険料:月額25,700円(組合員、令和6年度)
- メリット:収入が増えても保険料は変わらないため、高所得者ほど有利になります。
他にも、美容師や建設業など、様々な職種の国保組合が存在します。
ご自身の職種で加入できる組合がないか、一度調べてみる価値は十分にあります。
選択肢4:条件を満たせば可能な「家族の扶養に入る」
ご自身の年間収入が一定額未満であれば、配偶者や親族が加入する会社の健康保険の扶養に入ることも選択肢の一つです。
扶養に入ることができれば、自分で保険料を支払う必要がなくなります。
主な条件
- 年間収入が130万円未満であること
- 扶養してくれる方の年間収入の半分未満であること
ただし、ここでいう「収入」は経費を引く前の売上高である点に注意が必要です。
また、健康保険組合によっては独自の基準を設けている場合があるため、必ず扶養者の勤務先に確認しましょう。
【比較表】あなたに合う健康保険はどれ?ケース別おすすめ診断
4つの選択肢を比較検討し、あなたに最適なプランを見つけましょう。
比較項目 | 国民健康保険 | 任意継続 | 国保組合 | 家族の扶養 |
---|---|---|---|---|
保険料 | 所得に応じて変動 | 退職時の給与で固定 | 所得に関わらず定額 | 負担なし |
扶養制度 | なし | あり | あり | - |
加入しやすさ | 誰でも加入可能 | 退職後20日以内 | 特定の職種のみ | 条件あり |
こんな人におすすめ | 独立直後で収入が低い人 | 退職時の収入が高くない人、家族を扶養したい人 | 対象職種で収入が高い人 | 年間収入が130万円未満の人 |
まずは国民健康保険と任意継続の保険料を比較し、さらに国保組合の対象であればその保険料も確認するのが賢い手順です。
【年金編】国民年金+αで将来の安心を上乗せする方法
フリーランスは、会社員が加入する厚生年金には加入できません。
そのため、将来受け取る年金額は国民年金のみとなり、会社員と比べて少なくなるのが現実です。
老後の生活に不安を残さないためにも、国民年金の仕組みを理解し、自分で上乗せする準備を始めましょう。
フリーランスの基礎「国民年金」の仕組みと保険料
日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入を義務付けられているのが、国民年金です。
フリーランスになると、会社員時代の第2号被保険者から、第1号被保険者へと種別変更の手続きが必要になります。
- 保険料:所得にかかわらず定額です(令和6年度は月額16,980円)。
- 手続き:退職後14日以内に、市区町村役場で手続きを行います。
- 注意点:保険料を納めないと、将来の老齢年金だけでなく、万が一の際の障害年金や遺族年金も受け取れなくなるリスクがあります。
保障を上乗せする制度(国民年金基金・iDeCo)で老後の備えを万全に
国民年金だけでは心もとない、という方のための上乗せ制度があります。
代表的なものが「国民年金基金」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。
制度名 | 特徴 | こんな人におすすめ |
---|---|---|
国民年金基金 | 掛金が固定で、将来受け取る年金額が確定している。 | 安定志向で、将来の受給額を見通したい人。 |
iDeCo | 自分で運用商品を選び、その運用成果によって将来の受取額が変わる。 | 積極的に資産運用して、将来の年金を増やしたい人。 |
どちらの制度も、支払った掛金が全額所得控除の対象となる大きな節税メリットがあります。
将来への備えが、現在の税金負担を軽くしてくれる一石二鳥の制度なのです。
【実践編】フリーランスの社会保険料を賢く抑える7つの方法
フリーランスにとって、社会保険料は決して軽くない固定費です。
しかし、制度を正しく理解し活用することで、負担を合法的に抑えることが可能です。
ここでは、すぐに実践できる7つのテクニックをご紹介します。
1. 青色申告で最大65万円の控除を受ける
節税の王道である青色申告は、社会保険料の節約にも繋がります。
最大65万円の青色申告特別控除を利用して課税所得を圧縮すれば、所得税や住民税だけでなく、所得に連動する国民健康保険料も安くすることができます。
2. 経費を漏れなく計上して課税所得を減らす
事業のために使った費用は、漏れなく経費として計上しましょう。
所得が減れば、国民健康保険料の負担も軽くなります。
- 自宅兼事務所の家賃や光熱費(事業で使う割合を家事按分(かじあんぶん))
- パソコンやソフトウェアの購入費
- 取引先との打ち合わせの飲食代
- スキルアップのための書籍代やセミナー参加費
レシートや領収書は必ず保管しておく習慣をつけましょう。
3. 社会保険料控除を最大限に活用する
1年間に支払った国民健康保険料と国民年金保険料は、その全額が「社会保険料控除」の対象になります。
確定申告の際に忘れずに申告することで、課税所得を減らすことができます。
iDeCoや小規模企業共済の掛金も同様に全額控除の対象です。
4. 国民健康保険の減免・免除制度を利用する
災害、病気、事業の不振などで所得が著しく減少し、保険料の支払いが困難になった場合、保険料を減額または免除してもらえる制度があります。
条件は自治体によって異なりますが、困ったときには諦めずに役所の窓口に相談してみましょう。
5. 国民健康保険組合への加入を検討する
前述の通り、所得が高い方ほど国保組合のメリットは大きくなります。
所得に関わらず保険料が一定なので、収入が上がっても保険料の負担が増える心配がありません。
ご自身の職種が対象になっていないか、改めて確認してみましょう。
6. 保険料の安い自治体への引っ越しを検討する
国民健康保険料は、全国一律ではありません。
自治体の財政状況などによって、保険料率には意外なほど大きな差があります。
もし移住を考えているなら、移転先の保険料を比較検討するのも一つの方法です。
7. 所得が増えたら「法人化」も視野に入れる
年間の所得が一定額を超えてくると、個人事業主よりも法人を設立した方が税金や社会保険料の面で有利になる場合があります(具体的な金額は、事業の状況によって異なります)。
自分への給与(役員報酬)を一定額に設定することで、社会保険料をコントロールしやすくなるためです。
事業が大きく成長した際の選択肢として、頭の片隅に置いておきましょう。
【年収別】フリーランスの社会保険料はいくら?簡単シミュレーション
「結局、自分は年間いくら社会保険料を払うことになるの?」という疑問にお答えします。
ここでは、年収(売上)別に社会保険料の概算をシミュレーションしてみましょう。
※以下のシミュレーションは、あくまで一例です。
- 前提条件
- 居住地:東京都新宿区
- 年齢:35歳(介護保険料なし)
- 扶養家族:なし
- 経費:売上の40%と仮定
- 年金:国民年金のみに加入
年収(売上) | 経費(40%) | 所得 | 国保料(年額目安) | 国民年金(年額) | 社会保険料 合計(年額) |
---|---|---|---|---|---|
300万円 | 120万円 | 180万円 | 約 22万円 | 約 20万円 | 約 42万円 |
500万円 | 200万円 | 300万円 | 約 38万円 | 約 20万円 | 約 58万円 |
800万円 | 320万円 | 480万円 | 約 59万円 | 約 20万円 | 約 79万円 |
年収が上がるにつれて、社会保険料の負担も大きくなることがわかります。
ご自身の正確な保険料は、お住まいの自治体のウェブサイトにあるシミュレーターで計算してみることをお勧めします。
フリーランスの社会保険に関するQ&A
ここでは、フリーランスの方が抱きがちな社会保険に関する疑問にお答えします。
Q1. 社会保険への加入は義務ですか?未加入だとどうなりますか?
A1. はい、日本の「国民皆保険・国民皆年金」の制度に基づき、国民健康保険と国民年金への加入は法律上の義務です。
直接的な罰則はありませんが、未加入のままだと以下のような大きなデメリットがあります。
- 病気やケガをした際の医療費が全額自己負担になる。
- 将来、老齢年金を受け取れなくなる。
- 事故などで障害が残っても、障害年金が受け取れない。
- 滞納が続くと、財産を差し押さえられる可能性がある。
Q2. 退職後の手続きを忘れていました。どうすればいいですか?
A2. 気づいた時点ですぐに、お住まいの市区町村役場で手続きを行ってください。
保険料は、会社の健康保険の資格を喪失した時点まで遡って支払う必要があります。
放置すると延滞金が加算される場合もあるため、速やかな対応が重要です。
Q3. フリーランスでも労災保険に入れますか?
A3. 原則として、フリーランスは労災保険の対象外です。
しかし、ITエンジニアや建設業の一人親方など、一部の職種では「特別加入制度」を利用して任意で労災保険に加入できます。
仕事中のリスクが高い職種の方は、加入を検討する価値があります。
【最新情報】フリーランスの社会保険はどう変わる?法改正の動向
フリーランスを取り巻く社会保険制度は、今まさに変化の時を迎えています。
今後のキャリアプランを考える上で、最新の法改正の動向を知っておくことは非常に重要です。
確定情報:育児中の国民年金保険料が免除
2026年10月から、フリーランスや自営業者(国民年金第1号被保険者)を対象に、育児期間中の国民年金保険料が免除される新制度が始まります。
子どもが1歳になるまでの期間、保険料の支払いが免除され、その期間は保険料を納付したものとして扱われます。
これにより、将来の年金額を減らすことなく、子育てに専念できる環境が整います。
議論中:被用者保険の適用拡大
現在、政府ではフリーランスを会社員と同じ被用者保険(協会けんぽ・厚生年金)の対象に含めるかどうかの議論が進んでいます。
これが実現すれば、フリーランスも厚生年金に加入できるようになり、老後の保障が手厚くなる可能性があります。
一方で、保険料負担のあり方など課題も多く、今後の議論の行方が注目されます。
まとめ:フリーランスになったら、まずやるべき社会保険手続きチェックリスト
フリーランスの社会保険は、一見複雑に見えますが、ポイントを押さえれば決して難しいものではありません。
大切なのは、自分ごととして制度を理解し、主体的に最適な選択をしていくことです。
最後に、会社を辞めてフリーランスになる際に、すぐやるべき手続きをチェックリストにまとめました。
このリストを参考に、確実な一歩を踏み出してください。
- 退職後すぐ
- 任意継続の検討:退職前に、会社の健康保険組合に保険料を確認する。国民健康保険料と比較し、どちらが有利か判断する。
- 必要書類の準備:会社から「健康保険資格喪失証明書」と「年金手帳」を受け取る。
- 退職後14日以内
- 役所で手続き:お住まいの市区町村役場で「国民健康保険」と「国民年金」への切り替え手続きを行う。
- 手続き後
- 国保組合の検討:ご自身の職種で加入できる「国民健康保険組合」がないか調べる。もし有利なら切り替えを検討する。
- 年金の上乗せ検討:「iDeCo」や「国民年金基金」の資料を取り寄せ、将来への備えを計画する。
この記事が、あなたのフリーランスとしての新しい門出を、力強く後押しできれば幸いです。